ミッションは順調に進んでいた。たったふたりで三年、この基本的なインフラを整備してしまったのだ。このときジェイコブ二八歳、スヴェトラーナ二七歳だった。

 もともとの予定ではふたりが整備したインフラを、八年交代で新たな宇宙飛行士が訪れ、メンテナンスするというものだった。その一方スヴェトラーナが発見した『空間の泡』現象のために、実際に航行にかかる時間はおおよそ二年九ヶ月。

 ふたりは共同生活で、式を書いて議論していた。

 ジェイコブは言った。

「……つまり、この恒星系が含まれる空間は、物質の密度が希釈で太陽系に比べて八分の一しかない。恒星系全体がまるで雲みたいになっているんだ」

「そうね」

「式を字義通り読めばそうだけど、変形すればもうひとつの無矛盾な解釈が与えられる」

「……時間の単位が違う。こっちでの一年は、向こうでの八年」

「そう。つまりこの恒星系では『時間が太陽系よりも八倍速く進んでいる』。または同値な言明としては『ぼくたちの代謝は地球上でのそれより八倍遅くなっている』。ウラシマ効果だ。一般相対性理論とも矛盾しない。ただ速度や重力に比例してなだらかなにそれが発生するわけではなくて、『空間の泡』あるいは『時空のレンズ』とでも言うべきようなものの前後でいきなり離散的に、すべての物理定数が変わってしまう。もしもこの仮説が正しければ、ぼくたちは実際八年かけて惑星に上陸し、すでに二四年もの期間、この惑星で活動していることになる。ただ代謝が遅くなっているだけだ。つまり地球ではもう、ぼくたちが出発してから三二年は経過しているはずなんだ」

 スヴェトラーナはショックを受けていた。だとすればアルゴノート二二号がとうに現れているはずだ。

「わたしたちは見捨てられたんだわ」