「……驚いたな」
嵐を乗り越え、ジェイコブは惑星を目にして宇宙への驚嘆と畏敬の念を言葉にした。
「理論上ありえないわ」
「でも現にありえている」
ふたりが目にしたものは、目標としていた惑星そのものだった。『空間の渦』の先には恒星系が存在していて、船は惑星の周回軌道に突入していた。
ふたりは『地球の理論上』八年かかる場所までわずか二年と九ヶ月で到着してしまったのだ。
スヴェトラーナは何度も計算を繰り返し、ため息をついた。
「計算すると、この惑星から地球は〇・五光年の位置にある」
「観測する場所によって観測結果が変わるってこと? そんなばかな。宇宙は主観的な存在じゃない」
「物理定数が違うの。この空間では光速度定数の値が太陽系よりおよそ八倍で観測される」
「……ありえない。物理定数は物理変数だったって言うのか」
「でもほかの定数との比は変わってない。万有引力定数も八倍。プランク定数も八倍。空間自体が膨らんでいるのよ。ただ広くなっているだけじゃなくて、空間の『最小単位』自体が大きくなっているの。だから光は八倍の速度で動けるしこの船もそれだけ速く運動できる。でも『空間の膜』がレンズの役割を果たして、この恒星系での運動の速度は地球からは八倍遅く観測される。地球の光速度を基準にすると、わたしたちは地球から一光年の位置までは光速の五〇パーセントで航行していたけど、そこから三光年の距離を、じつに光速の四〇〇パーセントの速度で運動しているのよ」
「……計器に表示される速度がそうじゃないのはすべての単位が変わって計器自体にも影響しているからか」
「そう。この周辺でいくら観測しても、物理法則が変わったことはわからないわ。でも宇宙の天体のすべての観測結果を総合すると、そうとしか結論できないのよ」