二一世紀末、地球ではセカンドアース計画の中止が公式に発表された。もはや宇宙に夢を見る時代ではないと。

 アルゴノート二一号に搭乗したふたりの宇宙飛行士が地球に帰還することはなかった。さらにアルゴノート二二号、二三号の相次ぐ事故によりこれ以上の計画の延長は無謀だと判断されたのだ。

 ふたりは殉職者として歴史に名を遺した。

 スヴェトラーナの発見した理論が注目されるのは二二世紀のことだった。『空間の泡』の発見は地球の科学者を刺激し、『時空の泡』に拡張されて宇宙に対する理解が変わったのだ。

 こうして二二世紀の宇宙開発の関心はもっぱら植民地の開拓から『時空の航路』の探索に移る。

 地球の人々の興味がセカンドアースという惑星に移ったのは、それから三〇〇〇年以上もの時間が経過した西暦五〇世紀になってからのことだった。地球環境が激変し、次々と停止するインフラと飢饉。高緯度の大陸はのきなみ氷床に覆われ、気温が低下して作物は育たない。ロンドン、パリ、ニューヨーク……東京。たび重なる大量死で地球上の総人口は産業革命以前ほどにまで落ち込み、人々はそのときになってやっと、地球外への植民を強く願った。もちろんそのときの人類に、宇宙開発をするだけの力は残っていなかった。

 五〇世紀の地球では過去の歴史は忘れられ、どうやらセカンドアースという未開の地に原始的な住民がいるらしいとだけ知られていた。

 五〇世紀のセカンドアース最大の都市はフィフス・フラグと呼ばれ、ちょうど二一世紀のニューヨークに匹敵するほどの大都市だった。地球とセカンドアースの交流はそのころ完全に断絶しており、お互いに相手がどの程度の文明なのかさえ知らない。

 セカンドアースでは『地球』と呼ばれる星の話が神話として語り継がれていたが、多くの人々はそんな惑星が存在するとさえ思っていなかった。

 地球の技術の粋を集め、たった数隻の宇宙船が建造された。乗員数は五〇〇名程度で、軌道上からの砲撃で地表の生物を根絶やしにするほどの威力のある兵器を備えている。

 それはセカンドアースの原住民を力で従わせ植民地支配するための、地球の人々の野望だったのだ。

(終)