それから五年。ふたりはいろいろなことを経験した。人間としての、人生経験。
スヴェトラーナが二八歳のとき、彼女はジェイコブの腕枕でかれに寄り添って言った。
「もうここに骨をうずめるつもりでいるわ」
「帰るつもりがないってこと?」
「そうじゃないけど、そうなってもかまわないって」
「……ぼくも」
「でも勇気がない」
「なんの?」
「……ミッションを達成するには、どうしてもふたり必要よ。だから避妊してるの」
「これほど長い仕事だ。私生活の自由は保障されている」
「でもやるべきことが山ほどあるのよ。人類の未来を背負っていると言ってもいい」
「……もうあっちでは半世紀以上経っているはず。そんなに気張ることないさ」
「ないけど」
「けど?」
「……ただ、あなたはどうなのかなって」
「ぼくはもともと、生きて帰ることができると思っていなかった。八年もの航行を無事に成功させるだけでも難しいし、現地で自給自足のインフラをたった数年でつくるのも困難なことだ。ここではそこそこうまくいっている。いまから帰るってことは、事故のリスクを背負うってことでもある。安全をとることは、そんなに悪い選択肢ではないと思う」
「……」
「……それに、この計画はもともとセカンドアース計画という地球型惑星の植民化計画だ。それがもし中止されたとして、仮にぼくたちがここで任務を全うしてこの惑星から人間がいなくなったら、それこそセカンドアース計画はおじゃんってものだ」
「つまり、それって」
「要はほんとに実現したいことを考えるのであれば、ぼくたちがやってることはその過程でしかない。こういう事態が計画に織り込み済みだとすればそれはそれで戦略的で、いいように扱われているみたいで悔しいけどね」