スヴェトラーナは地球へ向けて理論のスケッチを送った。空間の泡の話。そしてそれに基づく宇宙サーフィン航法。

 ジェイコブがそれを査読した。

「『空間の泡(スペース・バブル)』の海図をつくることができれば、適切な航路を開拓することで『見かけ上』超光速で宇宙のいたるところに移動できる、か」

「そう。いままで人類は、わたしもそうだったけど宇宙空間の移動は慣性の法則、つまり真空中は空気などの抵抗がなければ等速運動を続けると素朴に考えていたのよ。でも実際の宇宙はもっと『でこぼこ』したものだったの。それが観測事実を説明する唯一の理論。人間が山を越えるよりも平地を歩いたほうが速く進めるように、宇宙にも『光が移動するのにかかるコスト』のようなものがある。この泡だらけの宇宙のなかには光速度が異なる泡がいくつもあって、航路を適切に選ぶことでどんなに遠くへも行けるのよ。もちろん、その泡のなかではあくまで光速度が速度の上限。でも光速度定数自体が違うから、『地球からの見かけの距離』だけで実際に移動する時間を見積もることは、もはやこの宇宙では通用しないの。速度の概念自体が単なる直線距離を時間で割ったものではなくて、平面や立体を移動するのにかかる移動コストの概念に拡張されてしまうのよ」

「これを送って信じてもらえると思う?」

「……賭けるしかない。ここにきて発見したことをむだにしないためにも」